おじさんだってね こんなこと言いたくなかったんだ・・・・

そんな声が聞こえた・・・・

緊張感が走る 4両目

眠りかけていた わたしは 目を半開きにする

そう そこは優先席・・・・

比較的すいた朝の電車に

紺色のトレンチコートのおじさんと

となりの微妙な距離に 

小学生

・・・・ああ坊や、怒られたの はじめてかい

おじさんだって こんなこと言いたくないよ

でも この席では それは禁止されているんだ

 ♪ チャラリーン!

        優先席付近では

         携帯電話の電源を

          お切りください

       うふっ、

        ラン ラン ラン ♪

 

 ・・・・ほら 車掌さんだってそう言っているだろう

 坊や 

 私立小学校の制服を着た坊や

 ママにも言われてこなかったのかい

 ごめんね そんな顔をしないでおくれ

 これは マナーなんだ ルールなんだ

 おじさんだってね 言いたくなかった けど

 誰かが言わないと 

 いけないだろう・・・・

   わたしはそのころ 睡眠と通勤の半分くらいの水位にあり

   ぷかぷか ゆらゆらと 朝焼けの高架線に浮かんでいた

   車掌の罪深い コート姿と白い手袋

   車掌 あなたが低く通る声で行った命令が

   わたしの身体に針金を通し

   この 目の前にいる おじさんの身体にも・・・

ああ きっと 奥さんにうとましがられ 娘にうとましがられている(たぶん) おじさんの 胃癌でも住んでいそうな 細い体に 針金を通すのだわ むじゃきな車掌は・・・

車掌は着ている はかなくて 札束と同じくらいにしか 役に立たないけど 制服という 鎧を 着ている・・・だけど車掌を愛してしまったそのおじさんはどうだろう 裸じゃないか まるで 裸じゃないか でも車掌を愛してしまった わたしだってそうだわ 車掌になりたくて 駅のホームで人に押されながら レピーターテントー なんて 言ってしまうとき・・・こんなに丸腰なのに 車掌になっていることに 気づく・・・ちがうわ ずるいわ お客様のご理解とご協力をお願いします なんて 綺麗な瞳でささやかれたら・・・・

鎧もないのに戦ってしまう 

鎧もないのに戦ってしまう

誰も守ってないけど まあ そんな もんじゃない ルールって やつは

ばかだなあ、ほんとに守っているやつがいるよ、あんなめちゃくちゃな きまりってやつ を。

なしくずし 

ありくずし    

風化して風に崩れるルールがあるのね

悪いのは誰でもないのよ みんなあの頃ひたむきだった ナイーブだった・・・そうだわ わたしだって じつは電車内で携帯電話は通話可能にすべきだと思うときも多い・・・・

でも 車掌に マナーだから お願いします なんて 頼まれたら

いいこ いいこ されたいから・・・・

頑張るじゃないか・・・

頑張るじゃないか・・・

宝石のように美しい哲学 「車掌なるもの」をトレンチコートの体中に埋め尽くされて 貧相だけど誇りは一流 素晴らしき あの おじさんに 幸多かれと 祈った 朝 そういえば きょうは わたしの 誕生日 ラン ラン ラン

←わたしは「こんなにご飯をまずそうに食べる人はあまりいない」と言われたことがあります。